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東京高等裁判所 平成6年(ネ)2849号 判決

控訴人(原告) 金子恭子

控訴人(原告) 金子誠

右両名訴訟代理人弁護士 大貫端久

同 深沢信夫

被控訴人(被告) 株式会社サニーハウス

右代表者代表取締役 小笠原孝之

被控訴人(被告) 椿俊雄

右両名訴訟代理人弁護士 大内邦彦

主文

一、原判決を取り消す。

二、控訴人らと被控訴人株式会社サニーハウスとの間において、同被控訴人の平成三年四月二三日開催の株主総会における取締役金子恭子を解任する旨の決議及び根本守を取締役に選任する旨の決議並びに平成四年一月三一日開催の株主総会における小笠原孝之、椿俊雄及び根本守を取締役に選任する旨の決議は、いずれも存在しないことを確認する。

三、控訴人金子恭子が被控訴人株式会社サニーハウスの株式六〇株を、同金子誠が同被控訴人の株式四〇株をそれぞれ有する同被控訴人の株主であることを確認する。

四、訴訟費用は、第一、第二審とも被控訴人らの負担とする。

事実及び理由

第一、控訴人らの控訴の趣旨

主文一、三及び原判決の事実及び理由の第一の一と同旨(なお、主文三については、控訴人らは、明示的には、原判決の事実及び理由の第一の二に記載のとおりの請求をしているが、その真意は、主文三のとおりであると解される。)

第二、事案の概要等

一、事案の概要

本件は、被控訴人株式会社サニーハウス(以下「被控訴人会社」という。)を設立し、その株主であり、取締役であると主張する控訴人金子恭子(以下「控訴人恭子」という。)及びその株主であると主張する控訴人金子誠(以下「控訴人誠」という。)が、被控訴人会社に対し、右株主としての地位に基づき、平成三年四月二三日に開催されたとする株主総会の決議(控訴人恭子を取締役から解任し、根本守を取締役に選任する決議)並びに平成四年一月三一日に開催されたとする株主総会の決議(小笠原孝之、被控訴人椿俊雄(以下「被控訴人椿」という。)及び根本守を取締役に選任する決議)が不存在であることの確認を求め、また、被控訴人らとの間で、控訴人恭子が株式六〇株、控訴人誠が株式四〇株をそれぞれ有する被控訴人会社の株主であることの確認を求めるものである。

原判決は、控訴人らの各株主総会決議の不存在確認を求める訴えをいずれも却下し、また、控訴人らの株主であることの確認を求める請求を棄却したので、これに不服の控訴人らが控訴した。

二、当事者間に争いのない事実

1. 被控訴人会社は、昭和六三年一二月一四日、資本金五〇〇万円(一株五万円一〇〇株)で設立された会社であり、設立当初の株主の名義とその持株数は次のとおりであった。

控訴人恭子 九三株

控訴人誠 一株

秋山伸之 一株

秋山由美子 一株

加藤宏 一株

平間正二 一株

溝淵哲史 一株

日高京子 一株

2. 被控訴人会社設立当初、控訴人恭子は取締役更に代表取締役に選任され、再び平成二年一月二六日取締役更に代表取締役に選任されたが、平成三年四月二三日に被控訴人会社の株主総会が開催され、控訴人恭子を取締役から解任し、根本守を取締役に解任する旨の決議がされたとして(以下右総会を「第一の総会」といい、右決議を「第一の総会決議」という。)、同年五月七日控訴人恭子の解任及び根本守の就任の登記がされた。

3. また、平成四年一月三一日に被控訴人会社の株主総会が開催され、小笠原孝之、被控訴人椿及び根本守を再び取締役に選任する旨の決議がされたとして(以下右総会を「第二の総会」といい、右決議を「第二の総会決議」という。)、同年七月八日右三名の重任の登記がされた。

4. 被控訴人らは、被控訴人椿が被控訴人会社の唯一の株主であると主張し、控訴人らが株主であることを争っている。

三、争点

1. 第一、第二の総会決議の不存在確認を求める訴えは適法か。

2. 控訴人らは被控訴人会社の株主か。

3. 第一、第二の総会は不成立か。第一、第二の総会決議は不存在か。

四、争点に対する当事者の主張

1. 争点1について

(被控訴人ら)

控訴人らの株主総会決議の不存在確認を求める訴えは、第二の総会により、第一の総会で選任された取締役が既に退任し、後任取締役が選任され、その旨の登記も経由されている以上、既に退任している取締役の選任決議の不存在確認を求めるものであって、現在の法律関係に関するものではなく、即時確定の利益を欠くから、いずれも不適法であって、却下を免れない。

(控訴人ら)

根本守は第一の総会で選任され、第二の総会で重任されて依然として取締役として登記されているものであるから、この点で第二の総会決議の不存在確認を求める利益を有するほか、第一、第二の総会決議が不存在となれば、商法二五八条一項により、新たに取締役が選任されるまで、控訴人恭子が取締役としての権利義務を有することになるから、第一、第二の総会決議不存在確認の訴えは、現在の法律関係に関するものであり、即時確定の利益を有する適法な訴えである。

2. 争点2について

(控訴人ら)

被控訴人会社設立当時の株主は、右二の1のとおりであったところ、平成元年一月、控訴人恭子の株式三三株及び控訴人誠を除く六名の株主の株式各一株づつを控訴人誠に譲渡し、被控訴人の株主は、控訴人恭子(六〇株)及び同誠(四〇株)の二名となって現在に至っている。

(被控訴人ら)

被控訴人会社は、被控訴人椿が資本金五〇〇万円の全額を出資して設立した会社であり、実質上の株式引受人は、被控訴人椿ただ一人であるから、控訴人らは、被控訴人会社の株主ではない。右二の1の者らは、いずれも名義上の株式引受人に過ぎない。

3. 争点3について

(控訴人ら)

第一の総会は、株主である控訴人らに何らの招集通知もなく、また、被控訴人会社の全株式を保有する控訴人両名不在のままされたものであるから、株主総会は不成立であり、第一の総会決議は不存在である。

また、第二の総会決議も、同様の理由により、不存在というべきである。

(被控訴人ら)

右2のとおり、控訴人らは、被控訴人会社の株主ではないから、そもそも、第一、第二の総会決議を争う資格がない。

第三、争点に対する判断

一、争点1について

1. 控訴人らは、被控訴人会社の株主として、第一、第二の総会決議の不存在確認を求める訴えを提起しており、後記二のとおり、控訴人らが被控訴人会社の株主であると認められるから、右訴えの適否は、被控訴人ら主張の理由等により、右不存在確認を求める利益を欠くに至っているといえないか否かに関わる。

2. 第一の総会決議は、①平成二年一月二六日重任されて取締役となっていた控訴人恭子を解任する旨の決議及び②根本守を新たに取締役に選任する旨の決議から成り、第二の総会決議は、小笠原孝之、被控訴人椿及び根本守を各取締役に選任する旨の決議である。

3. ところで、甲第一号証によれば、被控訴人会社の定款二三条は、取締役の任期は就任後二カ年以内の最終の決算期に関する定時株主総会の終結の時までとする旨を、同二八条は、決算期を毎年一一月一日から翌年の一〇月三一日までの一年間とする旨を、また、同一七条は、定時株主総会は毎年一月に招集する旨を規定していることが認められる。そして、右定款の規定によれば、被控訴人会社の取締役の任期は、右株主総会の終結時をもって終了するのであるが、仮に右定時株主総会が何らかの理由によって開催されなかったときは、右定時株主総会が開催されるべき時期の経過によって終了するものと解すべきである。

控訴人恭子の第一の総会前の取締役の地位は平成二年一月二六日の選任によるものであり(第二の二の2)、したがって、その任期は、平成三年一〇月三一日を終期とする決算期に関する平成四年一月の定時株主総会の終結時をもって満了し、右定時株主総会が開催されなかったときは、同月の経過をもって満了することになる。そして、第二の総会はその開催の日から右決算期に関する定時株主総会であると考えられるから、控訴人恭子の取締役の地位は、第二の総会が開かれて終了したとすれば、それにより、それが開かれていないとすれば、平成四年一月の経過により任期が終了して失われるものということができる。

しかし、商法二五五条は、取締役は三人以上たることを要すると規定し、被控訴人会社の定款二一条は、取締役は五名以内と規定し、また、同法二五八条一項は、法律又は定款の定めた取締役の員数を欠くに至ったときは、任期満了により退任した取締役は新たに取締役が選任就職するまでは取締役の権利義務を有すると規定しているが、解任された取締役は右の権利義務を有しないと解されるところ、乙第一号証の一ないし三によれば、仮に第一の総会決議の①の控訴人恭子の取締役解任及び②の取締役選任の決議が不存在であれば、被控訴人会社の取締役は二名となってしまうから、控訴人恭子は、任期終了後も、取締役の権利義務を有することになるが、同①の決議が存在して効力を有すれば、控訴人恭子は、右権利義務も有しないことになる。

そうすると、第一の総会決議の①の不存在確認を訴求する利益がないものとはいえない。

また、根本守は、第一の総会決議の②で取締役に選任されたとされているので、その場合の任期は、平成四年一〇月三一日を終期とする決算期に関する平成五年一月の定時株主総会の終結時まで、又は、同月が経過するまでであるが、同②の存否は、控訴人恭子が平成四年一月の定時株主総会の終了又は同月の経過以降も取締役の権利義務を有するか否かに関わるから、第一の総会決議の②の不存在確認を訴求する利益がないものとはいえない。

第二の総会決議により選任されたとする小笠原ほか二名の取締役の任期は、平成六年一月の定時株主総会の終結時まで、又は、同月が経過するまでであるが、この決議の存否は、控訴人恭子の取締役の権利義務に関わるから、第二の総会決議の不存在を訴求する利益がないとすることはできない。

4. 以上によると、控訴人らの各株主総会決議の不存在確認を求める訴えは、適法であると解される。

二、争点2について

1. 〈証拠〉及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実を認めることができる。

(1)  控訴人恭子は、昭和六二年頃、ポーラ化粧品の販売をしながら、達磨不動産にアルバイトとして稼働していたが、友人が宅地建物取引主任の資格を取得したことを聞き、自らも右資格を取得して宅地建物取引業を自営しようと考え、右資格試験の受験のため、昭和六三年四月から九月までビジネススクールに通い、同年一一月、右資格試験に合格した。

(2)  控訴人恭子は、それより前に、被控訴人椿から、同人が経営するオークラハウジングの菊名サービスセンターを閉鎖するので、その事務所を使用して、宅地建物取引業を自営しないかと持ちかけられていたので、右資格試験に合格した同年一一月頃、被控訴人椿に会社設立手続きを教えてもらい、宅地建物取引業を目的とする被控訴人会社を設立することとし、設立当初の資本金を五〇〇万円とし、同年一一月二九日頃、父親の秋山治に千葉県商工信用金庫から二〇〇万円の融資を受けて貰い、同年一二月九日、自己の城南信用金庫のスイスフラン定期預金三〇〇万円を解約するなどして株式払込金を準備し、同日、横浜銀行菊名支店に五〇〇万円を払い込んだ。同年一二月一四日、被控訴人会社が設立され、第二の二の1のとおりの株主の名義で株式の引受けがされたが、このうち、控訴人恭子及びその夫である控訴人誠は別として、そのほかの者は、控訴人恭子の親類又は知人であって、控訴人と恭子がその名義を借りたものであり、それらの名義の株式の権利は控訴人恭子に属するものであった。

被控訴人会社の設立手続は控訴人恭子及び同控訴人が依頼した司法書士溝淵哲史が行った。そして、設立当初の被控訴人会社の役員は、代表取締役が控訴人恭子、他の取締役が控訴人誠及び秋山伸之(控訴人恭子の弟)の二名、監査役が秋山由美子(秋山伸之の妻)であり、平成二年一月二六日代表取締役には控訴人恭子が再び選任されているが、他の取締役が被控訴人椿及び小笠原孝之の二名に変わり、監査役が酒井徹に変わっている。

(3)  控訴人恭子の右(1)の資格試験合格による宅地建物取引主任の資格の取得日は、平成元年五月二〇日と定められており、被控訴人会社が自己の名義で営業できるのは、更に宅地建物取引業法上の免許を受けた後であることが見込まれたので、控訴人恭子は、平成元年一月頃、被控訴人椿との間で、右免許の取得までの間、控訴人恭子がオークラハウジングの菊名サービスセンター事務所を借り受け、オークラハウジングの看板を掲げて被控訴人会社の営業を行うが、その代わりに、被控訴人会社は、オークラハウジングに対し、看板料として売上の一割を支払うことを合意し、被控訴人会社は、その頃、同事務所内に備付けてあった備品等の譲渡を受けてその代金を支払い、リースに係る複写機、ファックス等につき、オークラハウジングからの名義書換えを受けたり、新たなリース契約を締結したりして事務用品を整え、また、新車を購入し、駐車場の賃貸借契約を控訴人恭子名義で締結するなどして同月半ば頃から同事務所で不動産取引業を開始し、被控訴人会社(控訴人恭子)は、毎月その営業内容をオークラハウジングに報告していた。そして、控訴人恭子が資格を取得した同年五月頃から八月頃までの間に、被控訴人会社は、被控訴人椿から営業保証供託金一〇〇〇万円を借り受けてこれを法務局に供託し、同年八月五日宅地建物取引業営業免許を取得した。

(4)  控訴人恭子は、右免許取得後は被控訴人会社名義で営業を行い、オークラハウジングへの看板料の支払を止めたものの、被控訴人椿の指導により会社を設立したことや、営業の開始時期に当たり、オークラハウジングの後ろ楯や協力が必要であったことから、その後も従来どおり、平成二年四月まで、被控訴人会社の営業の内容、収入状況等を報告していた。

(5)  オークラハウジングは、平成二年の五月頃から八月頃にかけて、東希望が丘の土地を取得し、地上建物を取り壊したうえ新築してこれを販売することとしたが、右購入資金の借り入れ、土地の取得、建築確認申請に自らの名義を使用することが不都合であったことから、控訴人恭子の了解のもとに同控訴人の名義を使用し、また、土地取得代金の頭金として、控訴人誠から一〇〇〇万円を借り入れるなどしてオークラハウジング及び被控訴人椿と控訴人恭子及び被控訴人会社とは良好な関係にあり、その間、右物件の譲渡に際し、被控訴人会社に三〇〇万円の仲介手数料の支払を約するなどしていたが、その後、右物件の帰属、販売物件代金の保管と清算、仲介手数料の支払等をめぐって、被控訴人椿と控訴人恭子とが対立するところとなり、平成三年初め頃から、被控訴人椿は、被控訴人会社は自分が設立したものであり、事務所や自動車、事務所内の備品等を無断で控訴人恭子が使用している等と主張するに至り、控訴人恭子は、同事務所での営業及び被控訴人会社名義の使用が不可能となったため、これを断念し、平成三年七月頃までに同事務所を引き上げ、同所付近に新会社(株式会社スターハウジング)を設立し、宅地建物取引業を営んで現在に至っている。

(6)  なお、被控訴人会社の株主につき記載のある書面をみるに、設立当初の株主の名義は、第二の二の1のとおりであったところ、平成元年一月二〇日付取締役会議事録(甲六)には、同日、取締役三名全員が出席し、右の当初の株主のうち、控訴人恭子が三三株を、他の株主がそれぞれ一株ずつを控訴人誠に譲渡し、右譲渡承認がされた旨の記載があり、平成元年一一月一日から平成二年一〇月三一日までを事業年度とする被控訴人会社の確定申告書控え(甲八の一ないし一四)中の同族会社の判定に関する明細書(甲八の二)には、株主として、控訴人恭子六〇株、控訴人誠四〇株との記載がされているが、この反面、平成元年一月二五日付取締役会議事録(甲三〇)には、右甲第六号証の取締役会直後の同年一月二五日、同月二〇日付取締役会と同じ取締役三名が出席して取締役会が開かれ、被控訴人椿が控訴人恭子から七三株を、他の当初の株主から各一株ずつを譲り受け、取締役会でその承認がされた旨の記載があり、昭和六三年一二月一四日から平成元年一〇月三一日までを事業年度とする被控訴人会社の確定申告書控え(甲七の一ないし一三)中の同族会社の判定に関する明細書(甲七の二)には、株主として、控訴人恭子一九株、被控訴人椿八一株との記載がされている。

以上の事実が認められる。〈証拠判断省略〉。

2. 右事実によれば、被控訴人会社は、もともと被控訴人恭子が、宅地建物取引業を自営するため、宅地建物取引主任の資格を取得までして設立した株式会社であり、そうである以上、控訴人恭子が敢えてオークラハウジングの一サービスセンターの実質を有するに過ぎない被控訴人会社の雇われ代表者に甘んずる意図は当初からなかったものと考えられ、また、被控訴人会社の設立に際し、控訴人恭子は、自己の預金や父親等からの援助を受けて実質的に株式引受金(資本金)の全額を出捐しているのであって、当初発行株式一〇〇株のうち九三株を控訴人恭子が引き受け、自己以外の取締役も夫の控訴人誠と弟の秋山伸之を選任し、株主及び役員構成を身内で固めたのも、これを裏付けるものというべきである。この点につき、被控訴人らは、被控訴人椿において右資本金の全額を拠出したと主張するが、右出張事実を認めるに足りる証拠はない。すなわち、被控訴人椿は、乙第一二号証(多田国雄が被控訴人椿から五〇〇万円を借り受けたとする借用書)の貸付金の返済金五〇〇万円をもって、自分が被控訴人会社の資本金を全額拠出した旨供述するが、右乙第一二号証の返済期日が資本金の払込期日と同一の日となっていることがかえって不自然さを感じさせるうえ、比較的多額な金額であるのに、その動きを明らかにする客観的証拠がないこと、仮に、被控訴人椿が被控訴人会社の資本金の全額を拠出したのであれば、被控訴人椿としては、設立当初の株主、引受株数、役員の構成等に関心を払い、税務対策等の理由で、自らの名義を使用しないにしても、株主及び役員の名義を、控訴人恭子と同控訴人の親類、知人のみにすることなく、他の自己の支配が及ぶような株主及び役員を名義上にせよ配置するのが通常であると考えられるのに、少なくとも設立当初は、そのような配慮をしたとは窺い得ないこと、設立手続等は、控訴人恭子及び同控訴人が依頼した溝淵司法書士が行ったものであることなどからすると、前述の被控訴人椿の供述は採用し難く、結局、右供述をもって前記認定を覆すに足りない。

また、右1によれば、被控訴人椿ないしオークラハウジングも、被控訴人会社の免許取得後は、右1の(5)の紛争の発生までは、被控訴人会社を独立の法人格を有する取引相手として扱ったこともあり、また、これを控訴人椿の会社であるといってもいなかったと認められるのであって、この事情を含む前記認定の諸事情(殊に、設立に当たり、株式払込金五〇〇万円を控訴人恭子が用意したこと)に鑑みると、右(6)の対立する証拠につき、甲第六号証、第八号証の二の記載の方を採用して、被控訴人会社の株主は、控訴人恭子(六〇株保有)と同誠(四〇株保有)であると認めるのが相当である。この認定に反する甲第三〇号証、同第七号証の二の記載は採用しない(付言するに、甲第六号証については、その三名の取締役の名下に押捺されている印影は、被控訴人会社の原始定款(甲一)、発起人会議事録(甲三)、創立総会議事録(甲四)等の控訴人恭子、同誠、秋山伸之の各名下に押捺されている個人実印(個人実印であることは、弁論の全趣旨によりこれを認める。)のそれと同一であるから、甲第六号証の証明力も高いと考えられる。これに対し、甲第三〇号証については、右三名の名下の印影はこれら実印の印影ではなく、被控訴人椿本人尋問の結果によれば、控訴人恭子の名下の印影は被控訴人会社の代表者印により、それ以外の者の名下の印影は有り合わせの印鑑により被控訴人椿が作出したものであることが認められるところ、控訴人恭子本人尋問の結果によれば、右書証につき、同控訴人がその作成に同意をした事実も、被控訴人会社の代表印を押捺した事実も、他の者の押印につき控訴人恭子が他の者に代わって同意した事実も認められないから(被控訴人椿のこれに反する供述は採用しない。)、同書証は被控訴人椿が偽造したものである可能性が強い(同書証の成立は当事者間に争いのないことになっているが、控訴人らは、被控訴人椿作成の文書として提出したものと考えられる。)。そして、内容的にも、甲第三〇号証は、甲第六号証の日付のわずか五日後に、これと全く異なる内容の株式譲渡及び譲渡承認がされたことをその内容としているが、そのようなことは、通常考え難いことであって、容易に採用できない。甲第七号証の二は、証人酒井徹の証言によれば、オークラハウジングの顧問税理士酒井徹が被控訴人椿の指示のもとに被控訴人会社の代表者の控訴人恭子に代わって作成したものであると認められるから、そこに記載の株主と持株数は、被控訴人椿の指示のままに書かれたものと考えられ、その記載をそのまま真実のものとして採用することはできない。のみならず、仮に株式譲渡及び譲渡承認が甲第三〇号証のとおりされたとすれば、控訴人恭子は二〇株、被控訴人椿は八〇株を保有する筈であるのに、右甲第七号証の二の記載は、これとも符号していないから、その点でも採用に由ない。)。

更に、被控訴人らは、被控訴人会社の唯一の株主でその実権を有するのは、被控訴人椿であることの根拠として、被控訴人会社の営業許可後も控訴人恭子が被控訴人椿の会社であるオークラハウジングに対し、営業報告をしており、オークラハウジングから控訴人恭子に売上げの一定割合を給料として支給していたと主張し、控訴人恭子がオークラハウジングに対し、平成元年一月から平成二年四月まで、被控訴人会社の営業報告をしていたことは、右1の(3)及び(4)に認定のとおりであるが、その事情は、そこに認定したとおりであって、このことから、被控訴人らの右主張事実を推認するに足りない。乙第六号証の一の営業報告の欄に、オークラハウジングが控訴人恭子に対し売上の三〇パーセントの歩合給を支給する旨の記載があるが、この記載は、被控訴人椿がしたものであり(控訴人恭子、被控訴人椿の各供述)、この記載内容につきそれに副う合意があったことを裏付ける証拠はないから、平成元年一、二月分について、控訴人恭子が右記載の歩合給に相当する金額だけを取得したという事実があったかどうかはともかく、控訴人恭子とオークラハウジングとの間で、被控訴人会社の営業に関し、控訴人恭子に歩合給を支払うという合意があったとは認定し難い。そして、右1によれば、被控訴人会社は、その営業免許を取得した平成元年八月以降オークラハウジングへ金員の支払をしていないのであり、その他右1の事実に鑑みれば、被控訴人会社がオークラハウジングの一部門を税務対策等のために法人化したに過ぎないものであり、控訴人恭子が雇われ代表者に過ぎないとは到底いえず、被控訴人らの右主張は採用できない。

3. 以上によれば、控訴人恭子は被控訴人会社の持株六〇株の、控訴人誠はその持株四〇株の株主である。

三、争点3について

1. 第一、第二の総会の成立について

甲三二号証の一ないし三によれば、被控訴人椿は、被控訴人会社の取締役の資格に基づき、被控訴人会社(代表者控訴人恭子)に対し、平成三年四月六日取締役会の開催を請求する旨の内容証明郵便を、同月一三日代表取締役の選任並びに臨時株主総会開催についての予定及び議題の決定を目的とする同月二二日の取締役会の開催を通知する内容証明郵便を発送したこと、小笠原孝之は、被控訴人会社の代表取締役として、控訴人恭子に対し、同月二五日、同月二三日開催の被控訴人会社の臨時株主総会(第一の総会)で控訴人恭子が代表取締役を解任された旨の内容証明郵便を発送したことが認められ、これによれば、同月二二日被控訴人会社の取締役会が開催され、そこで第一の総会を開催する旨の決議をしたことを窺い得ないではない。しかしながら、被控訴人会社の株主は控訴人恭子及び同誠の両名であって、その全株式は控訴人らが保有するものであるところ、弁論の全趣旨によれば、第一の総会の開催につき、控訴人らに対し、招集通知がされていないこと、仮に第一の総会が開催されたとしても、控訴人らはそこに出席しなかったこと(したがって、株主の全く出席しない総会であること)が認められるから、第一の総会が不成立であることが明らかである。

第二の総会についても、弁論の全趣旨によれば、第一の総会と同様、控訴人らに対し、招集通知がされておらず、控訴人らはそこに出席しなかったことが認められるから、それが不成立であることは明らかである。

2. 第一、第二の総会決議の存在について

右1によれば、第一、第二の総会は不成立であるから、その余の点につき判断するまでもなく、第一、第二の総会決議は不存在であることはいうまでもない。

第四、結論

一、第三の三によれば、第一、第二の総会決議の不存在確認を求める控訴人らの請求は理由があり、同二によれば、被控訴人会社の株式六〇株を有する株主であることの確認を求める控訴人恭子の請求及び同株式四〇株を有する株主であることの確認を求める控訴人誠の請求はいずれも理由がある。

原判決は、これと結論を異にするから、取消を免れない。

二、ところで、原判決は、各株主総会決議不存在確認を求める訴えを確認の利益がないものとして却下している。

そこで、これを取り消す場合は、民訴法三八八条により、右訴えに関する部分につき事件を原裁判所に差し戻す必要があるか、であるが、同条の趣旨は、当事者に審級の利益を保障することにあるから、訴訟の内容経過等から右利益を損わないと認むべき特段の事情があれば、右の差戻しをしなくても差し支えないものと解されるところ、本件は、総会決議不存在確認を求める訴訟と株主であることの確認を求める訴訟とが併合審理され、全体として、控訴人らが株主であるか否か、が中心争点となっていたのであり、前者の訴訟は、その適法性を判断するに際し、右中心争点につき解決がつけば、僅かの付随的判断により本案の判断も可能であるという関係にあることは、第三の判断に徴し明らかである。すなわち、前者の訴訟の適否は、第三の一で判断しているが、そこで、まず右の中心争点である同二の判断を引用しており、その判断を前提として、僅かの判断を付加することによって、前者の訴訟の本案の判断である同三の判断に至っているのである。そして、右判断については原審において審理が尽くされており、弁論の全趣旨によれば、両当事者とも、仮に前者の訴訟が適法と認められた場合に、審級の利益を盾に前者の訴訟に関する事件を、後者の訴訟と分離してでも、その差戻しを求めるという意向まではないものと認められる。そうすると、前者の訴訟につき、原審の却下の判断を取り消して、当審で本案につき判断することとしても、当事者の審級の利益を損なわない特段の事情があるといってよいから、前者の訴訟につき事件を原裁判所に差し戻すまでの必要はないというべきである。

三、よって原判決を取り消したうえ、控訴人の請求をいずれも認容し、訴訟費用の負担につき、民訴法九六条、八九条、九三条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 鈴木康之 裁判官 三代川俊一郎 伊藤茂夫)

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